MWは最近読んだ中で一番イカす作品だった。
ベースの設定なんかは蘇る金狼にそっくりで、出版順から言えば手塚治虫が影響を受けているのだろう。主人公は昼間は真面目な顔をもっているが、その裏側には自分の目的のためには平気で人を殺すような悪人だ。もっとも蘇る金狼が金のために犯罪に手を染めるのに大して、MWの美知夫はもっと何か邪悪なようなものに見える。途中その犯罪は何かしらの意味があるかのように見えるときもあるが、結局のところ本当の目的は完全にはわからない。何か元の理由はあったが、同じ手塚治虫のガラスの城の記録のように、ただ倫理観が単純に壊れてしまっているのだというのが答えのように感じる。大藪春彦のクールな犯罪者はスーパータフなために何でも平然とこなしている感じがするが、手塚治虫の方はそれが病理であり異常者であるというような表現に見える。
そんな犯罪者が抜け抜けと世間を出しぬいて、それが(お決まりだけど)やがて破綻していくというだけでも面白いのに、MWはそこに更に表題でもある米軍の化学兵器が絡むことで話のスケールが広がって、飽きずに最後まで一気に読んでしまった。得体のしれない名前のとんでもない化学薬品がアメリカ軍によって作られていて、それを手に入れようとするというのはコインロッカー・ベイビーズによく似ている。コインロッカー・ベイビーズはMWが完結してから二年後に出版されているので、影響を受けていてもおかしくない気がする。
主人公はサイコパスであり、同性愛の描写がかなり濃く描かれていて、ここまで先鋭的な作品が70年代に書かれたというのは本当に信じがたいのだけど、もっとも現在に至ってもここまでの作品というのは多く無いはずだし、年代とか関係なく単純に手塚治虫一人が異常であるというだけなのだという気もする。
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村上 龍
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