ばかおもちゃ本店:Youtube twitter:@sashimizakana Amazon.co.jpアソシエイト

2015年9月23日水曜日

世界は単純ではないが、幸福は案外単純であるのかも/畏悦録 水木しげるの世界

水木しげるが好きだ。
人生はごく理不尽に蹂躙され破壊され得ることを実感として知りつつ、それでもまあ、生きているなら生きているなりのいいこともあるわな、というような底の明るさがある気がする。
登場人物はあっさりととんでもない運命に突き落とされたりするけど、それはごく平易な筆致で描かれていて、ややもするとその状況は考え方の違いや状況の変化で、くるりと幸福と不幸を入れ替えてしまう。世界がそのように描かれて、そしておそらく本当にそうであろうと思うと、私は妙な安心を覚える。


畏悦録 水木しげるの世界 (角川文庫)
KADOKAWA / 角川書店 (2015-03-19)
売り上げランキング: 32,394

畏悦録に収録されている短編にも、そんな感じで通底した明るさを持ちつつ、どう捉えれば良いのかわからないような状況が、くるりと吉凶を入れ替えるような感じのものが多い。

血太郎奇談の「なんじゃそりゃ」的なハッピーエンド(だと思う)とか、霊形手術のそれでいいのか的な終わり方とか、天国なんかはもう完全に、いったいなにが幸福で、何が不幸であるのかということについての話だ。ただ天国のような訓話は単純な文明社会批判になっておしまいになりそうなものを、しかしあんな原始的な生活が幸福なのか、おれはまだ旅をつづける、と締めるのがなんとも良い。かと思うと、コケカキイキイみたいに「悪いやつをとにかくぶん殴ろう」みたいな単純な話を豪速球でぶち込んで来るところにも水木先生の魅力がある。

そしてそういうテーマの結論を、大人物という作品の中で、ごく普通の人のはずの妻が語る。
人の一生はまるで寒暖計のように感情が上下するだけのものよ
そこにいくばくかのお金があっちに行ったり
こっちに行ったりするだけのことよ
良いなあ。