どこのニュースサイトだか忘れたけど、この本がドイツで出たときに取り上げていたところがあって、なかなか面白そうな本だなと思っていたけど邦訳されたらしい。ヒトラーが現代によみがえるというと、B級の悪役ガハハ的なイメージがするけどそういう話じゃなくて、ヒトラーがYoutubeの人気者になっちゃって……というコメディらしい。
これまでヒトラーは冷血で人間では無いもののように描かれてきたのが、まともに人としてどういう人だったのだろうという考えから書かれているのが新しいところであるそうだけど、私はヒトラーをちゃんと人として描いた作品を既に知っている。
水木しげるの劇画ヒットラーだ。
水木先生が冷静な視点で描くヒットラーは、芸術肌で、思い込みが激しく、情熱家で、純情で、ちょっとばかし人よりカッとする、誰だって一度か二度くらい会ったことがありそうな奴だ。変な奴だなあと思ったとしても、そいつが稀代の悪人だなんて思えないし、水木先生お馴染みの素朴なキャラクター付けがされていることもあり、憎めない奴にすら見えてしまう。
もっとも漫画で見えないところで実際には信じられないほどの人々が、子供ですら殺されているのだから、あまりに素朴に描かれすぎではないかと思いもする。しかし、ひどいことをした人間が、性格的にもひどい人間であるかなんて、分かりやしないだろうとも思う(もっとも、だからこそ、ひどいことをした人間はその事実において、どれだけ良い性格の奴でも、ひどい奴なのだ)。
完全に地盤も何もない状態から独裁者にまで成り上がった男なのだ。むしろ、会ってみればとても魅力的で、この人のために何かしてやりたいという気にさせる奴だったりするんじゃなかろうか。
こういう、憎めない奴が誤った目的のために自分の助力を頼ってきたときに、果たして自分は正しく判断できるんだろうか、まあ権力者に頼られるなんて自分には有りはしないだろうけど、ちょっと気になった。