ポータルを私がこれまでやってきたその他の多くの作品と、大好きというラインで隔てるのは、それが外側へと向かっていたということがなによりも重要だ。しかもその試みはかなり上手くなされている。
ゲームに限定しなくたって、大好きのラインの内側にはそういうものがいっぱいある。ゲームなのに、全力でゲームではないのだとプレイヤーに信じ込ませようとするものとか、ゲームの内側には本当に世界があると語るものとか、ゲームがこの世界のあり方を変えてしまうと言うような話だとか。それらは沢山作られることはなくて、何年ものなかにぽつりぽつりとあるだけなので、それらと出会えた時に、本当に幸せな気持ちになることができる。
それを作ったというだけで、作った人間を尊敬してしまう。
いとうせいこうは決してただの変なメガネのオッサンではない。
ノーライフキングという素晴らしい作品を書いた、天才の変なメガネのオッサンなのだ。
書淫、或いは失われた夢の物語。というとても古くて今やレアなエロゲーでは、コマンド入力できないように見える箇所でテキスト入力をすることで、プレイヤーがゲームに介入できるようになっている。これはあまりに直接的過ぎて、すこし不格好な気さえする仕掛けではあったけど、それが意図したところは、もちろん同じく自分の意思がゲームに届いたと感じさせることだ。
そしてそれは成功していた。
言うべきことを言えずに悲しく終わってしまった物語で、プレイヤーである自分がもしも声を上げることができたなら。この物語はそれを擬似的に受け入れている。
もっとも、それすら含めて、このゲームを作った深沢さんは、何をしたとしても取り返しのつくことなどないのだ、と言っているような気がするし、セカンドノベルをやったり、2nd LOVEのあらすじを読む限り彼の作品に通底したテーマの気がするが、それはまた別の機会に書く。
脱線したが、そういうゲームがゲームではなく、どこかに本当にあるように、自分の声や意思が通じるように感じるというのは、ゲームを沢山やっている人ほど、ぐっと来てしまうんじゃないかと思う。
もっともポータルが特徴的なのは、それがメタフィクション的な要素を持たないにも関わらず、まるでゲームに本当に自分の意思が反映したのかと思えるような瞬間があることだ。決められたレールを走っているに過ぎないのに、自分が決めて話が動いているように感じられる。
それは他のゲームがそのままゲームの外側を指向するのに対して、ポータルはゲームの内側にさらにゲームを設けて、それに引きつけたのちにその内側からのゲームからの脱出を描くからだ。だから脱出は完全にゲーム内の出来事として描かれるにもかかわらず、プレイヤーは自分が本当にどこかから逃げ出したかのように感じる。
もっとも、本当はゲームはゲームでしかないし、私たちはどこへ行けるわけでもない。
変わらぬ日常をそれなりに繰り返していくだけだ。
いつかどこかへ辿り着く日を夢見ながら。
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そんなわけで今回の話に関連する私の好きなゲームとか小説とか。
エレクトロニック・アーツ (2008-05-22)
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ちなみにポータル2も面白かったけど、1がやっぱ好き。
ソニー・コンピュータエンタテインメント (2000-09-28)
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ゲームアーカイブスで買えば良いと思う。
Sエンド見て、そんでAll you need is kill読んでニヤニヤすれば良いと思う。
桜坂 洋
集英社
売り上げランキング: 12,357
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サイバーフロント (2010-08-26)
売り上げランキング: 3,090
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物語る能力というよりは、いくつかのギミックが良い感じに作用してまとまった作品て感じ。
いとうせいこう
河出書房新社
売り上げランキング: 130,241
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日本一ソフトウェア (2010-07-29)
売り上げランキング: 4,623
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本文中でも書いたみたいに、死と過去をテーマに深沢さんの作品のことを書きたいなーと思ったりするんだけど、実際書淫とセカンドノベルしかやったことがないうえに、セカンドノベル以外の作品が10年以上前のエロゲーなので入手性とか環境とか時間とかで実現しない。
書淫とセカンドノベルだけで知った顔をしてみようかしらん。