ばかおもちゃ本店:Youtube twitter:@sashimizakana Amazon.co.jpアソシエイト

2013年4月1日月曜日

個人的フィリップ・K・ディックおすすめ作品

ディックが好きだ。
一番ディックを読んでいた頃、、私は中小のSIerの社員で、 残業代もなく手取りは13万円程度で、中古でゲームや本を買うくらいしか趣味もないのに暮らしは厳しかった。四年間働いたが先行きの見通しなんてあるわけもなく、夜に不安に襲われて眠れなくなったり、急に得体の知れない恐怖に襲われてぬいぐるみを抱きしめながらガタガタ震えていたこともあった。
そんな状況でディックの描く、最悪の現実の中でなすすべもなく最悪のことが次々と起こる中で人たちが、あがきながら生き延びようとしているような姿が、ぴったりと来たのだと思う。
もっともディックに救われたとか、そういう大げさなことを言うつもりは無くて、作品にはそれを読むに適したときや状況というのがたぶんあって、私はそれに出会えたということだ。
そして、不景気だとか就職難とかいう昨今の状況にディックの作品には案外ぴったりと来るものが多いんじゃないかと思う。そんなわけで、私が好きなディックの作品を適当に紹介したい。
好き勝手書くので特に役に立つこととかないです。

ちなみにはっきりとあらすじを書くようなつもりはないけど、作品の内容には触れるので、読むときには全く前提を知らないで読みたい人は読み進まない方が良い。私はあらすじどころかオチをあらかじめ知ることにも全く忌避感がないので、私がネタバレでないと思って書いていても、そういうのが嫌な人には十分ネタバレと思えるようなことを書くかも知れない。

と、存分に前置きをしたところで始める。



スキャナー・ダークリー (ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K. ディック
早川書房
売り上げランキング: 85,953

学生の頃学校にも行かず、両親がたいてい居ない友達の家に集まって延々とゲームをやったり、お金もないのでその辺をただぶらぶらと歩き回ったりしていた。何もできないけど毎日自由で、その頃は本当に友達と何の実りもない馬鹿話でもしてれば楽しかった。やがてそのツケとして友達は次々に留年したり、学校を退学したりしていき、仕事を始めたり結婚したりしていく中で、何の義務も責任も無い日々は終わっていった。
この作品には、そんな風に大人になっても面白おかしく生きている薬中が沢山出てきて、やはりそのことに酷いツケを払わされていく。主人公もそれに巻き込まれていくんだけど、なぜだか私は最後のシーンに果てしなく自由になっていく精神を感じて、悲しくも胸がすくような思いがする。
まともな説明としては、実際に薬中だったり政府に不審を強く抱いていたディックの状況が非常に強く反映しているとかなんとか。まあでもそういうことはどうでもいいか。
一番好きな作品。

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)
フィリップ・K・ディック
早川書房
売り上げランキング: 78,522

ディックで最初にどれを勧める?
そう聞かれたときに一番最初にあげそうなのがユービックです。
でもそれはたとえば外国人に何か日本食を作ってくれと言われて、寿司や天ぷらを出すことに似ている。これはよそ行きのディックとでも言うべきもので、話は実に綺麗にまとまっていて、サスペンスの連続の後に見事な終わり方をする。
しかしそう毎日日本人は寿司や天ぷらを食べているだろうか。
寿司や天ぷらだけが好きという人間が、日本食が好きと言えるのだろうか。
我々は毎日、ごはんや味噌汁やどうってことない煮物などを食べているのであり、ディックの作品は大量にあれど結構多くのものが味噌汁や煮物であって、もっと言うと結構な割合でオカンの作るよく分からないアレンジメニューみたいなものだ。
あれ、これ何が入ってんの? というかコンソメで煮てあるの? 何料理?
みたいな。
私はそんなディックの作品も大好きである。
でも寿司うまいよね。

まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫 SF テ 1-19 ディック傑作集)
フィリップ・K・ディック
早川書房
売り上げランキング: 96,832

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K. ディック
早川書房
売り上げランキング: 216,933

最初にどれを勧めるか、ということで考えると案外短編である気もする。
考えてみるとディックの短編というのは上記の表現を使い回せばかなり寿司率が高く、どれも面白くて衝撃を受ける。想像で書くとディックは割と長編を書くときに行き当たりばったりだったり、途中で考えを変えるようなことが多くてそれが上手く行くと思いもつかない展開をしたり、深みのある物語を作るのだけど、失敗したときはつぎはぎだらけでオチがどこかの次元に飛んでったような作品になるのではないか。
その点、短編は終わりまでが近いからか話はちゃんと一貫していて、多くが見事な終わり方をする。ワンアイデアあれば話は作れるのだ、という見本のような名作揃いだと思う。
だから短編なら私が勧めるまでもなくどれでも読めば良いと思うが、上には私が最初に読んだ短編集と、映画化されたものが多く有名な作品の多い短編集をあげておいた。どちらもかなり良い作品が多く入っている。
もっとも私が本当に心から愛するディックはやっぱり長編の方であるので、短編を読んで面白かった人はぜひ長編の方も読んで欲しいなと思う。



てなわけでまだ山のようにおすすめに上げられるけど、長くなったのでこれくらいで。